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名古屋地方裁判所 平成8年(ワ)4870号 判決

原告

宮地芳弘

被告

長江勇二

主文

一  被告は、原告に対し、金七一万六二一一円及びこれに対する平成八年七月九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告に対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、金一〇九万四九四八円及びこれに対する平成八年七月九日(本件不法行為の日)から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

【訴訟物―不法行為(民法七〇九条)に基づく損害賠償請求権及び民法所定の遅延損害金請求権。】

第二事案の概要

本件は、信号機の設置されている交差点において、直進中であった原告運転の普通乗用自動車と同じく直進中の被告運転の原動機付自転車とが出会い頭に衝突した事故につき、原告が、民法七〇九条に基づき、被告に対して、原告の自動車の修理費用等の損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

原告は、次のような交通事故に遭遇した(以下、右事故を「本件事故」という。)。

(一) 日時 平成八年七月九日午前六時〇五分ころ

(二) 場所 名古屋市熱田区桜田町二〇番二七号先の交差点(市道八熊線の通称立石橋西信号交差点、以下「本件交差点」という。)

(三) 被害車両 普通乗用自動車(以下「原告車」という。)

右運転者 原告

(四) 加害車両 原動機付自転車(以下「被告車」という。)

右運転者 被告

(五) 事故態様 本件交差点において、原告車と二人乗りをしていた被告車とが出会い頭に衝突した。

2  原告車の修理代

原告車の修理代金は金一〇九万三六八五円である。

二  原告の主張

1  事故態様について

被告運転の被告車は、そもそも違法な原動機付自転車の二人乗りであり、本件交差点にさしかかったときに、その手前で黄色信号を見たものの、右方の安全確認を十分にすることなく、しかも本件交差点手前で徐行することなく本件交差点内に進入(西進)したものである。

これに対して、原告は、本件交差点を走行(南進)していたものであるが、原告にも黄色信号のままで本件交差点に進入した過失があることから、その過失割合は、原告二割、被告が八割である。

2  原告の損害について

(一) 評価損 金一五万円

修理代金の約一五パーセント

(二) 弁護士費用 金一〇万円

三  被告の主張(事故態様について―過失相殺の主張―)

本件事故は、原告及び被告双方が、本件交差点の各対面する信号表示が赤色であったにもかかわらず、これを無視して本件交差点に進入したことにより発生したものであるから、その過失割合は、最大でも原告が五割、被告が五割とするのが相当である。

四  本件の争点

被告は、まず本件事故の態様を争い、次に、原告主張の損害額をそれぞれ争い、さらに、本件事故の責任は原告にもあるとして、前記のとおりの過失相殺を主張した。

第三争点に対する判断

一  原告の損害について

評価損について(請求額金一五万円) 認容額 〇円

甲第二号証及び弁論の全趣によれば、原告車は、平成四年一一月の新規登録の車であって(本件事故までに約三年七か月間使用)、本件事故当時までに約四万四〇〇〇キロメートル走行していることが認められ、この事実を前提にすると、原告車の本件修理にともなう評価損については、これを本件事故と相当因果関係を有する損害としては認めることができないというべきである。

二  本件事故の態様及び過失割合について

前記の争いのない事実に、証拠(甲第一号証、乙第一号証の一ないし九、乙第二号証の一、二、乙第三号証、原告、被告各本人〈それぞれ採用しない部分を除く。〉、弁論の全趣旨)を総合すると、次の各事実を認めることができる。

1  本件交差点付近の状況としては、

本件交差点は、原告が北から南に向けて走行していた片側三車線の道路(南方のみに走行できる一方通行の規制のある道路であって、その三車線の幅員は合計で一〇・五メートルで、アスファルト舗装の道路である。また、右道路の東側には三・〇メートル幅の、西側には二・〇メートル幅のそれぞれ歩道が設けられていること。以下「南北道路」という。)と、被告が東から西に向けて走行していた片側二車線の道路(その二車線の幅員は合計で七・五メートルで、アスファルト舗装の道路である。また、右道路の北側及び南側にはそれぞれ四・〇メートル幅の歩道が設けられていること。以下「東西道路」という。)とが交差し、信号機による交通整理の行われている交差点であり、さらに、東西道路の東方には立石橋が架かりその東方には別の交差点(通称立石橋東信号交差点)が設置されていること、

その本件事故現場付近の道路規制としては、南北道路及び東西道路ともにその制限速度は毎時五〇キロメートルであること、

さらに、本件交差点付近の状況としては、被告の走行していた東西道路から見た右方向(すなわち、原告車が走行してくる方向であり、反対に原告が走行していた南北道路から見た左方向となる。)の見通しとしては、本件交差点の北東角にはオートガススタンドの建物(小屋)があり、かつ、右立石橋には高さ約一メートルの鉄柵(欄干)が設置されていることなどから、その見通しを悪くしていたこと、

2  本件事故の態様としては、

被告は、被告車を運転して(後部座席に人を乗せていわゆる二人乗りをしており、これは道路交通法違反である。)本件交差点手前の立石橋付近を時速約三〇キロメートルで走行(西進)していた際に、本件交差点の南北道路の北側信号表示が黄色から赤色に変わるのを見たが、前記のとおり本件交差点の自己の進行する方向の右手方向はその見通しがよくないのに、右方の安全確認をすることなく、かつ、本件交差点に進入する直前においてはその対面する信号表示をなんら確認することなく、しかも、本件交差点手前でほとんど徐行することもなく、本件交差点内に進入(西進)し、原告車と衝突したものであること、なお、原告車と被告車の衝突地点は、本件交差点の中央からは南方であって本件交差点の南方出口付近であり、被告車は原告車の後部左側面に衝突していること、

これに対して、原告は、原告車を運転して、時速約六〇~七〇キロメートルで南北道路を走行(南進)中、本件交差点手前約一一三・五メートル付近で対面信号表示が青色であること、本件交差点手前約二〇・三メートル付近で対面信号表示が黄色であることをそれぞれ確認したものの、そのままの状態で進行したが、前記のとおり原告から見ても本件交差点の左手方向(被告車が進行してくる方向)はその見通しがよくないのに、左方の安全確認をすることなく、本件交差点内に進行(南進)したことから、前記のとおり原告車は被告車と衝突したものであること、

以上の1及び2の各事実が認められ、右認定に反する原告本人及び被告本人の各供述は、前掲の各証拠に照らしていずれもこれらを採用できない。

3  そこで、まず、被告の過失を検討するに、

東西道路から見て、南北道路の原告車が進行して来る側の見通しはよくなかったのであるから、被告は、本件交差点を走行して直進するに際しては、その信号表示を確認してその表示に従い、かつ、徐行するなどしたうえで、南北道路の特に右方を注視して南北道路を走行して来る自動車の有無などその安全を十分に確認して進行すべき注意義務があったのに、これを怠ったという過失があること、

4  これに対して、原告の過失を検討するに、

本件交差点は、原告から見てもその左方の見通しはよくなかったのであるから、原告は、南北道路を走行するに際しては、その信号表示を確認してその表示に従い、その左方を注視して、または、減速するなどして、東西道路からの自動車の有無などその安全を十分に確認して走行すべき注意義務があるのに、これを怠ったという過失があること、

以上3及び4の認定判断に反する原告本人及び被告本人の各供述は、前掲の各証拠に照らしてこれらを採用できない。

三  過失相殺について

前記二で認定の各事実及び認定判断によれば、本件事故は、前記認定の被告の過失と原告の過失とが競合して発生したものといわざるをえない。そして、前記認定の諸事情に徴すると、本件事故における被告車と原告車との過失割合については、被告車(被告)が六割、原告車(原告)が四割と認めるのが相当である。

四  具体的損害額について

そうすると、前記争いのない事実2の原告車の修理代及び前記一での認定判断によれば、本件で原告が被告に対して請求しうる損害賠償の損害額は合計金一〇九万三六八五円となり、前記三の過失割合による過失相殺をすれば、原告の具体的な損害賠償請求権は金六五万六二一一円となる。

五  弁護士費用について(請求額金一〇万円) 認容額 金六万円

本件事故と相当因果関係のある原告の弁護士費用相当の損害額は、金六万円と認めるのが相当である。

六  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、金七一万六二一一円及びこれに対する本件不法行為の日である平成八年七月九日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言については同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安間雅夫)

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